なるほど、そうだったのか(その2)

以前のコラム(82)で「沈みゆく大国 アメリカ」(堤 未果 著、集英社新書)という書籍をご紹介しました。
保険会社が実権を握るアメリカ医療が様々な問題を抱えていること、そしてアメリカ国民を救うかと思われたいわゆるオバマケアが、実は「1%の超富裕層」達による国家解体ゲームの最終章であり、格差は拡大するばかり。そして次のターゲットは日本…。

今後の日本の医療の行方に危機感を抱かせる内容だったのですが、最近その続編が出版されました。「沈みゆく大国 アメリカ〈逃げ切れ! 日本の医療〉」(集英社新書)です。ここでは詳しい内容の説明はしませんが、是非皆さんにもご一読いただくことをお勧めします。

OECD(経済協力開発機構)のデータによれば、日本の医療費の対GDP(国内総生産)比は諸外国に比べるとかなり低いにもかかわらず、政府は「医療費が増えると国の財政が破綻する」という理由を掲げて、医療費抑制に必死です。また諸外国に比しかなり高い自己負担率を、さらに引き上げようとしています。その裏にはどのような思惑があるのでしょうか。
医療あるいは介護には「人」が必要なのですが、政府は診療報酬や介護報酬を引き下げ、人を増やすことを妨げようとしているかのようです。
日本には世界が羨む国民皆保険制度がありますが、政府は国家戦略特区や混合診療を導入して、それを切り崩そうとしているかに見えます。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への地ならしをしているのでしょうか。

人はいつでもないものをねだり、あるもののありがたさを忘れてしまいます。
堤氏が本の中で紹介している「どんなに素晴らしいものを持っていても、その価値に気付かなければ隙をつくることになる。そしてそれを狙っている連中がいたら、簡単に掠め取られてしまう」というアメリカ人医師の言葉、そして、「今の日本は国民皆保険制度をはじめ貴いものを守る代わりにないがしろにして、外国に安く売り飛ばすような、間違った方向に進んでいます。医師たちは忙し過ぎて、なかなか政治のことを考える余裕がない。そして一部の者たちの権力や金銭欲のために、国を誤った方向に引っ張ろうとしている連中が、政策決定の中枢にいる。でも私が何よりも危惧するのは、ごく普通の人々の無関心です。これが変わらなければ、いくら権力側に働きかけても国は動かない。そして普通の人々の無関心こそが、放っておけば国を亡ぼしてしまうのです」という済生会栗橋病院の本田 宏医師の言葉を、私達はじっくりと噛みしめる必要があるのではないでしょうか。

日本の医療が政府主導で変わりつつあるのは確かです。今後どのような方向に向かうのか、正直言って私にもよくわからないところがあります。従来の「病院完結型」の医療から「地域完結型」の医療に変わらなければならない、「地域包括ケアシステム」がキーワードで、そのためには「かかりつけ医」が重要、という政府の考えは大筋で了解はできます。しかし、そのためには医師や看護師などの医療スタッフおよび介護スタッフの増員が必要です。でも、政府の動きはそれとは逆方向を向いているように見えます。
そんな中で、少なくとも現在の国民皆保険制度はきちんと維持していかなければならないと思います。何といっても、世界保健機関(WHO)が世界一と評価した日本の医療の、根幹をなす制度なのですから。
皆さんもどうか医療に目を向け、関心を持って下さい。当たり前と思っている今の医療が当たり前でなくなったとき、そのときにはもはや後戻りはできないのです。もちろん、今の医療よりもさらにいいものが構築されるのであれば、それはそれで言うことはないのですが…。でもたぶんそうはなりません。
政府の意向でジワジワと進みつつある医療のアメリカ化は、裕福な人はそれなりの医療を受けられるけれども、貧しい人は十分な医療を受けられない、という格差社会に向かうことが確実です。なぜなら、今のアメリカの医療がそうだからです。

政府は「社会保障と税の一体改革」の名の元、医療費削減策を推し進めています。しかし先にも述べたように、日本の医療費は先進国の中では最低レベルなのです。医療費を減らした分のお金はどこに回るのでしょうか。ひょっとして国防費? そういえば、集団的自衛権行使のために自衛隊の活動範囲を拡げるべく、関連法案が着々と整備されているようです。

私は医療(と教育)は国を支える大きな柱であると考えています。医療、介護、年金などの社会保障制度は、憲法第25条に基づくものです。アメリカでは医療は商品となっているようですが、日本の医療は社会保障の一環なのです。医療のアメリカ化は医療の商品化を意味します。それでいいのかどうか、私達日本国民ひとりひとりが、真剣に考えなければならないのではないでしょうか。
もし医療が商品化され、社会保障制度が揺らぐとしたら、日本という国が揺らぐのではないか…、私はそう思っています。

日本国憲法第25条:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 平成27年5月28日
病院長 藤原正博

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