地域完結型の医療を今後も維持するために

6月1日、JR浦佐駅のすぐ近くに魚沼基幹病院が開院しました。救命救急センターを併設する全354床(いずれ454床へ増床予定)の総合病院です。これに伴い、県立小出病院と県立六日町病院がそれぞれ魚沼市立、南魚沼市立の病院となり、大幅に規模が縮小されました。
国が推し進めている二次医療圏ごとの病床再編策の一環ということになります。
これまでは長岡市など圏域外に流れていた患者がこの魚沼圏域にとどまり、この圏域内で医療が完結することが期待されています。
ただ、これまで小出地域、六日町地域で頑張って急性期医療を提供してきた小出病院、六日町病院が、今後はその機能を果たすことができなくなります。急性期医療を実践するためには医師や看護師などの医療スタッフの数が必要で、なんとか貢献したいという気持ちだけではどうにもならないのです。おそらくこれからは救急患者のほとんどが魚沼基幹病院に送られ、小出病院、六日町病院は魚沼基幹病院を退院した患者の引受先になると思われます。せいぜい一次救急(柏崎市の休日・夜間急患センターに相当)を扱うくらいでしょうか。
国は諸外国と比べると多過ぎる急性期病床を減らすことを画策しています。その主目的は医療費の削減。急性期医療にはお金がかかるのです。

二次医療圏ごとの病院の役割分担、病床再編というのは、東京など人口密集地では有用な施策と思われます。普段はかかりつけ医、病院医療が必要であればかかりつけ医の紹介で適切な病院を受診、治療が一段落したら近くの慢性期病院に移るか、あるいは再びかかりつけ医に戻る…。交通の便がよく、病院間の距離も比較的短いので、地域住民はそれほどは不便を感じないのではないかと思います。今のような大病院への患者集中も改善することができます。
しかし新潟県の場合、一つの二次医療圏の範囲が広く、移動に時間がかかります。また冬は雪が降って、交通事情が悪化します。そのためでしょうか、当初は十日町地域も魚沼全体の医療再編の対象とされていたものが、実際には別扱いとなり、今後も新築される県立十日町病院を軸とした医療体制が維持されるようです。魚沼基幹病院を中心とする魚沼地域の今後の医療の動向を、注視していかなければなりません。
それはなぜかと言うと、柏崎市は長岡市と一緒になって一つの二次医療圏を構成しているからです。国が言うように二次医療圏単位での医療再編が進むとしたら、当院の立場は非常に微妙だからです。厚生労働省の担当者が「急性期医療を担う大きな病院は、一つの二次医療圏に一つか二つあれば十分」と発言していることを踏まえると、当院も小出病院や六日町病院のように規模縮小を余儀なくされる可能性がないわけではないのです。
当院は年間約2,500台の救急搬送を受け入れており、医療内容も長岡市内の病院と遜色なく、この地域の基幹病院としての役割を十分果たしていると自負しておりますが、もし地域の皆さんが、ご自分の判断あるいは地域の他の医療機関からの紹介で長岡市の病院を利用されるようですと(このあたりの人の動きは厚生労働省には丸見えです)、当院の急性期病院としての意義が薄れることになります。「なんだ、柏崎の住民は地元の病院を利用していないじゃないか」ということになってしまうのです。
柏崎刈羽地域の医療は今のところほぼこの地域内で完結しています。それを今後も維持していくためには、地域の皆さんのご協力が必要です。もちろん私達病院スタッフは皆さんにいい医療を提供すべく努力して参ります。それと同時に、皆さんにも病院を育てていただきたいのです。魚沼二次医療圏で十日町地域が独立した医療圏を維持した如く、この柏崎地域も長岡地域とは独立した医療圏を維持することが必要なのです。
この冬は柏崎の市街地は小雪でしたが、高柳など山沿いの地域では大雪でした。その地域の人たちが急病で入院が必要となった場合に、柏崎ではなくて長岡まで行かなければならないとしたら…、またたとえ市街地にお住まいの方であっても、冬、曽地峠を越えるのは大変です。高速道路も大雪や強風で通行止めになることもありますよね。さらに夜間、休日に病院を受診したけれど、入院は長岡で、ということになるとしたら…。そう考えれば、柏崎地域で医療が完結することの重要性をご理解いただけるのではないでしょうか。

市民アンケートの結果を見ると、市民の一番の不満は医療体制、そして一番の関心事もまた医療体制です。原子力発電所の安全性よりも重要視されており、いかに市民の関心が高いかがわかります。ただ具体的に何が不満なのかまではわかりません。私達病院スタッフは市民の皆さんにいい医療を提供したいと考えて努力しています。もちろん足りないところもあるかとは思います。しかし絶対的な人手不足だけはどうにもなりません(魚沼基幹病院は当院とほぼ同規模ですが、医師の数は74名で当院の倍、看護師は298名で当院の約1.2倍です。ほとんどの医師が新潟大学から派遣されており、そのため新潟大学に医師派遣のお願いに行っても、今は人がいないということで片付けられてしまいます。当分は当院の医師増員は困難な状況です)。医療は「人と人」なのですが、その「人」が足りないために皆さんにご迷惑をおかけしていることは否めません。
皆さんからいろいろなご意見をいただいています。たまにはお褒めの言葉をいただくこともあるのですが、多くはお叱りです。一つ一つのご意見に耳を傾け、対応できることは迅速に対応するようにしておりますが、皆さんにとってはまだまだ不十分かもしれません。
柏崎で安心して、安全に暮らすための医療の果たす役割は大きいと思います。私達は皆さんの期待に応え、評価に耐える病院でありたいと思っています。医学・医療のもともとの不確実さを考えると、結局は自分の信頼できる医療機関にかかることが一番です。この医師なら、このスタッフなら、この病院なら自分の身を任せられる、この病院で命を落としたとしても悔いはない、そう思える病院を探すのが一番です。でもそのために遠く離れた病院まで足を運ぶのは現実的には難しいところもあります。自分の地元に安心してかかれる病院があればそれに越したことはありません。私達は皆さんにとってのそういう病院でありたいと思っています。

当院あるいは柏崎市全体の医療に対してご不満、ご意見がおありの方、どうかそれを教えて下さい。具体的に何が問題なのか、どこをどうすればいいのか、あるいは他地域の病院ではこんないいところがあった、等々。
どうか一緒に柏崎刈羽地域の医療を守り、育てましょう。文句だけ言っていても問題は解決しません。皆さんがどういう医療を受けたいと思うのか、そのために私達はどうすればいいのか、そしてそれは実現可能なことなのかどうか、一緒に考えましょう。
病院長としては、市民の皆さんのお考えを直接聞く機会をなんとか設けたいと思っています。皆さんの率直な、建設的なご意見が必ずや病院を育て、皆さんにとっても満足ゆく医療を受けることに繋がるはずです。

この1月に「地域医療構想ガイドライン」が策定され、今後このガイドラインに沿って、各都道府県ごとにそれぞれの事情に配慮した地域医療構想が定められることになります。柏崎刈羽地域は今これだけのことをやっていて、今後も今の医療体制を継続していくことが重要なんだということを、皆さんと一緒になって情報発信をしていきたいと思います。国は国なりの考えがあるでしょうが、何といっても大切なのは、地域住民の健康を如何に守るか、地域住民が安心して暮らせる医療体制を如何に構築するか、なのですから。

平成27年6月11日
病院長 藤原正博

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