年齢と時間感覚~ トシをとると、なぜ時間が速く過ぎるのか

トシをとるにつれて、時間が速く過ぎるようになった…、そうお感じになる方って、けっこういらっしゃるのではないでしょうか。
斯く言う私も、最近やたら時間の流れを速く感じます。たとえば、外来で1か月あるいは2か月ごとに受診される方がいらっしゃいますが、えっ? この前お目にかかったばかりなのに…、ということがしばしばです。1か月、2か月という時間はけっこう長い時間だと思うのですが、随分短く感じてしまうのです。
ですから1週間なんてあっという間です。外来診療、入院患者さんの診療、院内の様々な会議、院外への出張、各種研究会や行事等…、これらをこなしているだけで、1週間はあっという間に過ぎてしまいます。

トシをとると時間が速く過ぎるように感じるのはなぜなのでしょうか。

こんな実験結果が示されています。4~82歳の約3,500人を対象として、自分が「3分」と感じた時点でボタンを押してもらったところ、年齢が高くなるほど実際の3分より長くなる傾向がみられたのだそうです。70歳代ではほぼ1割増、すなわち3分18秒経っていたとのこと。自分が感じる時間の進み方(心的時計)と実際の時間の進み方(物理的時計)が異なり、トシをとるほど心的時計の進み方が物理的時計よりも遅くなるからと考えられています。そのため、時間が速く過ぎるように感じるのです。

どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。いくつかの説があります。

まず一般的によく知られているのが「ジャネーの法則」。フランスの哲学者ポール・ジャネーとその甥の心理学者ピエール・ジャネーにより提唱された仮設で、「感じられる時間の長さは、年齢と反比例的な関係にある」というものです。
同じ1年であっても、10歳の子供にとっては人生の10分の1であり、60歳の大人にとっては60分の1です。年齢に対する比が小さいほど時間が短く感じられるので、加齢によって時間が短く感じられるようになる、というわけです。
しかしこの仮説は時間を研究している学者の間では否定的なようです。

次が代謝説。身体的代謝が活性化しているときには心的時計が速く進むのだそうです。たとえば発熱しているときは普段より身体的代謝が亢進しているため、時間がゆっくり進むように感じられます。かぜで熱があるので床に就いたけれどなかなか寝付けず、そろそろ夜が明けてしまうのではないかと思って時計を見たら、まだ1時間くらいしか経っていなかった、というような経験は、皆さんにもあるのではないでしょうか。
逆に身体的代謝が落ちると、それに伴って心的時計の進み方も遅くなるため、加齢により身体的代謝が低下することで物理的時計の方が心的時計よりも速く進み、時間の経過を速く感じるということになります。

時間経過に注意が向くほど、同じ時間がより長く感じられることも知られています。退屈な会議に出席していて、早く終わらないかと思って何度も時計に注意が向く場合は、時間がなかなか経たないような気がしますよね。一方、楽しく時間を過ごしている場合には時計のことなど気になりません。気が付いたらかなりの時間が経っていたという経験はおありだと思います。
子供と大人の時間の感じ方が違うのは、子供の方が待ち遠しい行事が多いので時間がなかなか経たないと感じ、大人は日常の多くの出来事がルーチンワークで、待ち遠しいことも子供ほど多くはないので、時間が速く過ぎると感じるのかもしれません。

同じ時間の長さであっても、イベントの数が多いほど時間が長く感じられるという傾向が、大人よりも子供において顕著であることが知られています。このことも大人と子供の時間の感じ方の違いに関係している可能性があります。

加齢に伴って時間が速く過ぎるというのは、心的時計が加齢によりゆっくり進むということですが、加齢が進むと神経生理学的・心理学的過程における情報処理の効率や速度が低下するので、そのために心的時計がゆっくり進むという説もあります。トシをとると、若い頃に比べて動きが緩慢になり、モノを見て判断するのにも時間がかかるようになります。自分ではまだそれほど時間は経っていないだろうと思っても、実際には物理的時計は心的時計よりも速く進んでいるため、あっという間に時間が経ったような気がするということになります。

ある特定の時間の範囲内ですべきことが多い場合、しかもそれが自分の能力の限界に近いほどのペースで作業をこなさなければならない場合には、時間はあっという間に過ぎるように感じられます。入学試験なんかがそうですよね。トシをとって身体運動能力が低下すると、若い頃と同じようなペースではできなくなります。若い頃には10できたものが、トシをとると7とか8しかできなくなるわけです。このことも時間が速く過ぎるように感じられる一つの理由かもしれません。

まあいろいろな説があるようですが、トシをとると時間が速く過ぎるということは間違いないようです。人生という限られた時間が足早に過ぎ去っていくということは、どうやら自分に残された時間はそれほど長くはないのかな…、最近そんなことを考えます。
人には寿命があり、いつかお迎えが来ることは確かですので、それまでをどう生きるのか、私だけではなく、ある程度の年齢に達した方々は、考えておくべきかもしれません。(ついでにどういう形で死ぬかということも、ご家族を交えて日頃から話し合い、考えておくといいですね。)
生きている今、少しでも充実した時間を過ごしたいと思うのであれば、いろいろな刺激を受けることでしょうか。ただぼんやりしていたのでは、大事な時間があっという間に過ぎてしまうことになります。
皆さんはこんなことをやりたいという何かをお持ちですか。もしそういうものがおありなら、優先順位をつけて一つずつやりましょう。あなたの時間つまり人生は有限なのですから。

 平成27年7月9日
病院長 藤原正博

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