産科医療崩壊の危機!

まず地域住民の皆様にお詫びをしなければなりません。先日当院のホームページに掲載いたしましたが、心ならずも当院での分娩を制限させていただかざるを得ない事態となってしまいました。
当院では年間350件前後のお産を2名の常勤産婦人科医で扱って参りました。週1回は新潟大学からの応援を得ておりますが、ほとんど毎日のように拘束され、休みも満足にとれないような状況でここまで頑張ってきました。もともと当院ほどの規模であれば、産婦人科医は最低でも3名は必要なのですが、新潟県のみならず全国的な産婦人科医不足のため、増員が叶わぬまま現在に至っております。そしてこの度、事情により常勤医が1名となり、今まで通りにお産を扱うことが不可能となってしまいました。当面は新潟大学から短期間交替での応援をいただけることになっておりますが、今後の体制については不透明です。
お産に限りませんが、地域の皆様の医療上のご要望にお応えすることが当院の責務と考え、ここまで努力してきたつもりですが、結果的に皆様にご心配、ご迷惑をおかけすることとなってしまい、申し訳なく思っております。心からお詫び申し上げます。
医師不足という私個人の力ではどうにもならない問題が根底にあるため、楽観的なことは申し上げられませんが、なんとか従来通りの体制に戻すべく、努力をして参りたいと思っております。

日本全体の医師不足の中でも、産婦人科医(特に産科医)の不足は深刻です。新たに産婦人科医を志す若い医師も年々減少しているようです。長時間労働を余儀なくされること、訴訟リスクが高いことなどが、その理由として挙げられています。これに対して日本産科婦人科学会は、この6月に「産婦人科医療グランドデザイン2015」を作成、現状の評価をした上で今後の方向性を示しています。
要は分娩取扱病院の集約化。それによって産婦人科医の勤務条件を改善し、産婦人科を専攻する若手医師を増やしたい、ということです。同学会の小西郁生理事長が、産婦人科医療改革公開フォーラムの席上、「(医師の)ワークライフバランスの保証が大事であり、そのためには『どの市町村でもお産ができる』という考え方は捨ててもらいたい」と発言しているように、主眼は医師の処遇改善であり、住民のお産についての希望は全く考慮していません。

かつては自宅での出産が当たり前だったのですが、1970年代以降はほとんど全てが病院・診療所での出産となっています。特に最近は高齢出産が増え、リスクが高いために、医療機関できちんと管理しなければならないケースが多くなっています。
皆さんはお産は安全だと思っていらっしゃるかもしれませんが、けっしてそんなことはありません。妊産婦死亡は日本では出生10万当り3.9人(2011年)ですが、英国は5.0(2010年)、米国は18.7(2008年)で日本の5倍です。日本だからこそ比較的安全にお産ができるのです。それに貢献してきたのが産科医なのです。でもその産科医が足りない!
このまま産科医不足が改善されなければ、産科婦人科学会が言うように、分娩取扱病院を集約化する方向に進むのは避けられないかもしれません。問題はどういう形で集約するのかということです。

今、医療全体が機能分化、役割分担を求められ、これから各都道府県ごとに地域医療構想が策定されることになります。たぶん産科医療もその中に組み込まれることになると思います。国の意向は二次医療圏単位での医療の再編成なのですが、前から申し上げているように、新潟県の地理的条件を考慮すると、今の二次医療圏は広すぎます。柏崎地域は長岡市、見附市、小千谷市、出雲崎町と一緒になって一つの二次医療圏を構成しているのですが、柏崎市街から長岡市の病院までは30km以上の道のりがあり、高速道路を使っても1時間弱かかります。冬、雪が降れば、もっと時間がかかります。郊外にお住まいであれば、さらに時間がかかることになります。産科も含めて救急医療は時間との勝負です。悠長に構えてなどいられないのです。
もともと今の二次医療圏は、東京などの都会を念頭に、人口約20万程度を目安に、ということで決められたもので、新潟県も国の意向に沿って平成18年にそれまでの13から7つに減りました。当然ながら一つの医療圏は広大となり、細かい医療サービスを提供することが困難であることは、想像に難くありません。二次医療圏を変更したのは47都道府県中わずか8県で、他の都道府県は住民サービスに支障が出るとのことで、従来通りとしています。本当は見直しが必要と思われる都道府県ではなく、なぜ新潟県が率先して変更したのか、私には理解できません。
新潟県は二次医療圏の見直しをするつもりはないようなので、せめて地域医療構想策定にあたっては二次医療圏にこだわらず、住民への医療サービスという観点で考えてほしいと思っています。

産科だけではなく、耳鼻咽喉科、眼科、胸部外科の常勤医が不在で、市民の皆様にはご迷惑をおかけしておりますが、当院としてはなんとか皆様のご要望にお応えすべく、職員一同、一丸となって努力して参りたいと思っております。どうかよろしくお願い申し上げます。

 平成27年8月27日
病院長 藤原正博

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