自分で考える

皆さん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

長年女子サッカー界を牽引して来た澤 穂希選手が昨年末引退を表明、その最後の試合となった皇后杯決勝戦では、自らヘッディングシュートを決め、1対0でアルビレックス新潟レディースを降し、INAC神戸を優勝に導きました。
その澤選手が現役を引退したことで、女子サッカー日本代表チームなでしこジャパンの佐々木則夫監督が危機感をあらわにしています。
サッカーはピッチ(フィールド/グランド)上では11人がプレーするチームゲームです。ひとりだけ優れた選手がいても、他の選手に力がなければチームとして戦い、勝つことはできません。逆にスター選手ばかり集めても、それぞれが協力し合わなければチームとしては機能しません。ひとりひとりが役割を分担し、さらに全体をまとめるリーダーがいることで、チームは力を発揮するのです。
サッカーに限らず、野球もラグビーもバスケットボールも、そして他の全てのチームゲームがそうだと思います。
なでしこジャパンの選手達ひとりひとりは優れた能力の持ち主であることは間違いありません。でもこれまでは澤 穂希というカリスマ的な力を持った選手が中心にいて、周りの選手達は彼女に引っ張られてきたという面があることも事実です。実際澤選手は、周りの選手達に、「苦しいときは私の背中を見て」と言い続けて来たそうです。
その澤選手が抜けることで、なでしこジャパンはどうなるのでしょうか。佐々木監督は言います。今後は選手ひとりひとりがそれぞれの能力を高めなければならない、と。そしてひとりひとりが自分で考えなければならない、と。自分で考え、他の選手の思いを理解し、チーム全体としての意思疎通を図る必要があるというわけです。澤 穂希というスーパースターが抜けた穴を埋めるためには、チーム全体のレベルアップが必要なのです。

ひとりひとりが自分で考えるというのは何もサッカーに限ったことではありません。「チーム=組織」という見方をすれば私の職場である病院もそうですし、皆さんがお努めになっていらっしゃるそれぞれの会社だって同様です。もっと大きな単位で考えれば、私達は柏崎市や刈羽村、新潟県、そして日本という国の一員であるわけですから、市・村民、県民、国民として、ものを考えなければならないのです。

現在の医療の基本的理念は「インフォームド・コンセント」です。医療側には十分な説明をすることが求められ、患者側はその説明をよくきいて、きちんと理解し、自分で考え、選択・決断し、そして医療側に同意を与える、という一連の過程を言います。しかし欧米人とは違ってどちらかというと「寄らば大樹の陰」あるいは「親方日の丸」的な傾向の強い日本人にとって、自分で考え、自分で決めるという行動は苦手なようです。
相手を心底信頼し、自分の命を預けてもいいと考えるのなら、全てお任せというのも一つの考え方でしょう。でも実際には100%信頼を置ける相手なんてそうはいません。自分で意思表明をせずに全部お任せということになると、任された側に謙虚さがあればいいのですが、そうでないと「黙って俺のいうことをきいていればいい」となって暴走する可能性があります。

このことは何も医療に限りません。私達は市・村民、県民、国民としても自分で考え、意思表示をする必要があるのではないかと思います。

一部大企業の業績が好調であることが伝えられる反面、高齢者、女性、子供の貧困が話題となり、格差が広がっていることがうかがわれます。かつて「一億総中流」と言われた時代がありましたが、遠い過去のものとなってしまいました。今後の日本はどういう方向に向かうのでしょうか。米国のように1%の超・富裕層が国の経済や政治を支配する社会になるのでしょうか。政府は「一億総活躍社会」なるスローガンを掲げていますが、あまりに現実とかけ離れているような気がしてなりません。
安倍首相が言うトリクルダウン説(民間企業が強くなって経済が活性化すれば、初めは一部の資産家や企業に富が集中するが、そのうちそこから社会に広く富がしたたり落ちて、国全体が豊かになる)が、現実のものとなるとはとても思えません。実際米国では富はしたたり落ちず、富の偏在が進み、貧富の差が拡大したとのこと。経済が成長すれば、本当に国民は幸せになるのでしょうか。
今後の日本を考えるのは政治家ではなく、私達自身なのです。自分のため、そして将来を担う子供たちのために、自分で考え、意思表示をしてみませんか。
人口減少問題、安全保障問題、エネルギー問題、社会保障問題、農業と食の安全の問題、憲法と立憲主義の問題など、考えなければならないことはたくさんあります。
8月には参議院議員選挙、10月には新潟県知事選挙、12月には柏崎市長選挙、刈羽村長選挙が予定されています。私達の1票はささやかな1票ではありますが、大事な1票でもあります。きちんと権利を行使したいものです。

医療分野における今年最大の注目点は「地域医療構想の策定」です。年々増加する医療費をどう抑制し、今後の人口減少を踏まえてどう病床を再編するか、各都道府県単位で検討が始まっています。
新潟県は若干遅れていますが、いずれ県全体の大枠が決まり、その後各地域毎の話し合いが行われることになります。問題はその「地域」です。国は二次医療圏を想定しているようですが、私は反対しています。新潟県の今の二次医療圏は範囲が広すぎて、その中で医療再編が行われるとしたら、多くの地域住民に対する医療サービスが低下することは目に見えているからです。柏崎刈羽地域は、これまで通りこの地域内での完結型医療を維持しなければなりません。私は常々そう申し上げてきているのですが、この機に皆さんにも是非この地域の医療の在り方を考えていただきたいと思います。
柏崎市、刈羽村は長岡市、見附市、小千谷市、出雲崎町と一緒になって二次医療圏を構成しています。急性期医療に対応する大きな病院は長岡市に位置し(急性期医療を担う病院は、二次医療圏に一つか二つあれば十分、と厚生労働省の官僚が発言しています)、当院はちょうど小出病院のように規模を縮小して回復期病床主体の病院となる…、それで皆さんは了解できますか?
私がいくらひとりで「柏崎地域はこの地域での完結型医療が必要」と力んでみても、皆さんがそう思わないのであれば、当院が現状を維持し続けることは困難です。要は地域の皆さんがどういう医療を望み、どういう医療を必要と考えるのか、全てはそこにかかっているのです。

年頭の挨拶で私は職員に話をしました。病院の医療はチーム医療であり、それぞれがプロとしての自覚を持って、どういう医療を提供すべきか、自分で考えてほしい、病院は地域の方々に利用してもらって初めて存在価値があるのだから、どうすれば地域の方々に当院を利用してもらえるのか、それぞれで考えてほしい、と。
私達はこれからも地域の皆さんに「いい医療」を提供していきたいと思っています。そのために私達は努力を続けますが、皆さんにも手を貸していただきたいのです。柏崎刈羽地域完結型の医療を実践していくために、何か皆さんにもできることはありませんか?
また、当院に対しての要望がございましたら、是非お聞かせ下さい。

 平成28年1月7日
病院長 藤原正博

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