感情表出とコントロール

アンガーマネジメントという言葉をご存知ですか? アンガーは怒り、マネジメントは対処とか制御という意味です。日本アンガーマネジメント協会という組織があって、そこが「アンガーマネジメント大賞2015」というものを発表しました。

それによると「上手に怒りの感情をコントロール・対応した有名人」第1位はプロサッカーの三浦知良選手。以下大塚家具代表取締役社長の大塚久美子氏、アーティストのGACKT、ラグビーワールドカップ日本代表、フィギュアスケートの浅田真央選手と続きます。
三浦選手の話はご存知の方が多いと思いますが、野球評論家の張本 勲氏が某テレビ番組(あの「あっぱれ!」とか「喝!」とかいうやつです)で、「若い選手に席を譲ってやらないと…」と引退を促すようなコメントをしました。それに対して三浦選手は、「『もっと活躍しろ』って言われているんだなと思う。『これなら引退しなくていいって、オレに言わせてみろ』ってことだと思う」と穏やかに対応しました。自身が感情をコントロールして対応することで、怒りの感情をむやみに連鎖させなかった点が高く評価されたとのこと。
GACKTが選ばれた理由については私は知らなかったのですが、彼がフランスでレストランに入った時、アジア人用の特定の席に座らされるという人種差別にあったのだそうです。その際彼は、店員に対して「大きな声で、わかりやすく理由を説明してくれ」と笑顔で抗議をしたとのこと。上手に感情をコントロールし、毅然と自分の意思を伝えた点が評価されたようです。

一方「怒りの感情をコントロールできずに、失敗してしまった有名人」第1位は、あの「ナッツ姫」、元大韓航空副社長チョ・ヒョナ氏が選ばれています。第2位は大塚勝久氏、第3位は森 喜朗氏、第4位は橋下 徹氏、第5位は佐野研二郎氏の順です。

人間は怒りだけではなく喜びや悲しみなど様々な感情を抱きます。場合によってはその感情を率直に表現することも大事なのですが、怒りをストレートに相手にぶつけるのは、必ずしもいい結果を招きません。
特に医療現場において患者を中心としたチーム医療を実践するためには、それぞれが自分自身の感情をコントロールすることが求められます。いつも心穏やかでいたいとは思っても、現実にはなかなかそうもいきません。腹立たしいことはいくらでもあります。でもその都度その怒りを爆発させていたのでは、人間関係はうまくいきません。グッとこらえることも必要です。
しかしただ我慢するだけではストレスがたまります。怒りの感情が湧いたときに、ちょっと時間を置き、自分は何に怒っているのか、その原因は何なのか、自分にも問題はないのかということに思いを馳せ、相手の気持ちにも配慮することができれば、口に出す言葉も変わってくるでしょうし、対応も違ってくるのではないかと思います。

とは言っても実際には難しい。私みたいに短気で、考えていることがすぐ顔に出るようだと、周囲の人との良好な関係を築くのはたいへんです。昔に比べれば少しは感情のコントロールができるようになったかなとも思うのですが、かなり周囲に迷惑をかけているのではないかと反省しています。

怒りはあまり表に出さない方がよさそうですが、悲しいときは遠慮なく涙を流す方がいいと私は思っています。
かつて医師は患者さんが亡くなったときに涙をこぼしてはいけないと教えられました。でもけっしてそんなことはない。患者さんやご家族と一緒に病気と闘い、なんとか治って元気になってほしいと願っていたその願いが叶わず、患者さんが亡くなられたとき、医師は例外なく深い悲しみを覚えます。そんなとき、ご家族と一緒に涙を流すことが、なぜいけないのでしょうか。もちろん亡くなり方によってはいかにも大往生で、みんなが笑顔で見送る場合もありますが、悲しいときには涙を流す、それが人としては当たり前の感情表現なのではないかと思います。
特にご家族の場合、悲しみを無理に押し込めてしまうことは、けっしていいことではありません。泣きたいときにはしっかりと泣くことが、その後の悲しみとの付き合い方にもいい影響を及ぼすのです。
よく周囲の人が「いつまでも泣いてばかりいないで、早く元気を出して」という励まし方をしますが、これはやめましょう。むしろしっかり泣く方が大事で、周囲の人にはそれを暖かく見守っていただきたいと思います。

喜びを爆発させるという言い方をしますよね。確かに誰かが喜んでいる姿を見ると、自分もうれしくなります。
高校野球で長打を放った選手が塁上でこぶしを突き上げる動作をしばしば見せます。その気持ちはわからないでもありません。でも、ちょっとなぁ、という思いもあるのです。高校野球は教育の一環、なんて言うと古臭いと非難されそうですが、でもただ勝てばいいというわけではないということには賛同していただけるのではないかと思います。勝ちたい、甲子園に行きたいという思いは元高校球児としてはよく理解できます。勝負事ですから負けるよりは勝つ方がいい、確かにそうですね。でも勝負事の中にあっても、相手に対する気遣いというのは必要なんじゃないかな、と思うのです。打たれた投手はどういう思いでいるのでしょうか。ちょっとだけでもそういう気遣いを見せてくれれば、と思うのは、甲子園の土を踏めなかった者のひがみでしょうか。

平成28年2月18日
病院長 藤原正博

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