在宅死

自宅で死を迎える人の死亡者全体に占める割合について、市町村別にまとめたデータ(2014年)が厚生労働省から公表されました。人口5万人以上の自治体で最も多かったのが兵庫県豊岡市の25.6%、最も少なかったのが愛知県蒲郡市の5.5%でした。
新潟県についてみてみると、最も多かったのが粟島浦村の40.0%、最も少なかったのが津南町の5.1%でした。新潟市は9.2%、長岡市は12.7%、上越市は12.9%、そして柏崎市は8.9%、刈羽村は16.7%でした。
全国平均は12.8%。因みに同年の病院死の割合は75.2%となっています。
各市町村で差があるのはそれぞれ事情があるからでしょうが、ここではコメントはしません。

ところで国がこのようなデータを公表する意図は、いったいどこにあるのでしょうか。

国は医療費削減のために入院病床を減らすことに必死です。急性期病床がターゲットではありますが、医療需要の少ない患者さんを病院から在宅に移行させることにも積極的です。多くの方が「最期は自宅の畳の上で迎えたい」と願っているのだから、家に帰るのが当然でしょ、というわけです。
家に帰って自立した生活を送れる人であればいいのですが、実際には今療養病床に入院している方達は、他者の介護を必要とする人がほとんどです。その方達が家に帰ったとき、いったい誰が面倒をみるのでしょうか。核家族化が進み、高齢者のみの所帯が増えています。高齢者の一人暮らしがかなり多くなっているのも事実です。昔のように家族の中の誰かが面倒をみるというわけにはいかないのです。
国は医療と介護の連携を謳ってはいますが、現実にはほとんど進展していません。国は政策は掲げても、実際の対応は市町村に丸投げなのです。今回このようなデータを出したのは、在宅医療への対応が遅れている市町村の尻を叩くためだったのでしょうか。

仮に在宅での療養が可能であったとしても、亡くなるときに家族がそのまま自宅で看取るのは、けっこう大変です。まず第一に「自分はここで死ぬんだ」というご本人の固い決意と、「何としてでも私達が家で看取る」というご家族の覚悟が必要です。しかし人の死に慣れていないと臨終間近の様々な症状に不安を抱き、ついつい救急車を呼んでしまいがちです。そういう家族の思いをかかりつけ医や訪問看護師などが支えなければならないのですが、実際にはなかなかうまくいきません。
救急車で病院に運ばれると、病院のスタッフは救命に全力をあげることになりますので、点滴をしたり、場合によっては気管内挿管後人工呼吸器に繋いだり、ということになって、ご本人の意思とは違った形での死を迎えることになります。

自分の死に方を選ぶのは難しいのですが、ある程度の年齢になったら自分はどう死ぬかということを考えておいてもいいのではないかと思います。何も国の意向に左右されることはありません。在宅死でも病院死でも、どちらでも構わないのです。ただし自分の頭の中に置いておくだけではダメです。ご家族とよく話し合っておく必要があります。
もし一人暮らしの場合には、あなたを支えてくれている周辺の人々にしっかりと自分の思いを伝えましょう。できれば「孤独死」は避けたいものです。

死はある意味生の総仕上げと言ってもいいかもしれません。「終わり良ければ総て良し」という言葉がありますが、せっかくの人生を台無しにするような死に方はしたくない…、少なくとも私はそう思っています。

平成28年7月21日
病院長 藤原正博

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