患者側と医療側との相互理解

多くの方々が医療は安全で確実なものだと考えておられるのではないかと思います。しかし残念ながらそれは幻想です。

自分の身体に何らかの不調を感じ、不安を覚えたとき、皆さんはその解決を求めて医療機関を受診します。そのとき、医師の診察を受け、いろいろな検査を受けることで問題が解決すれば、とりあえず皆さんは安心しますよね。かぜのようなすぐに治るものであればもちろんでしょうが、たとえがんだといわれたとしても、それに対しての心構えができます。しかし何だかわからないとなると、言い知れぬ不安に襲われると思います。
私は昔、「患者の前でわからないと言うな」と教育されました。「医者がわからないと言えば、患者は不安になる」と。しかし…。

皆さんは自分の心身の不調の答を求めて医療機関を受診します。原因を明らかにして、それを取り除いてくれることを期待します。医療側も原因をはっきりさせたい、それを取り除いて患者さんの状態を良くしてあげたいと思います。しかし実際にはそううまくいくことばかりではないのです。医療現場は曖昧さに満ち満ちています。医療というものは、もともと不確実で限界があり、また何らかのリスクを内包しているのです。

皆さんは思ったような答が得られないと医療に、と言うよりは「医師」に失望するかもしれません。その結果別の医療機関を受診することになったり、名医を求めて全国行脚することになります。そうすることで自分が期待した結果を得られればいいのですが、残念ながらほとんどそういうことはありません。
一方医療側も、患者さんの求めていることにきちんと答えられないときにはつらい気持ちになります。皆さんは医療者がそれぞれの現場でどう考えているか、思いを寄せたことがおありでしょうか。

不確実で限界があり、それなりのリスクを抱えた医療の実践にあたっては、皆さんと医療側との信頼関係を構築することが何よりも重要です。そしてリスクを受け容れる必要があります。そうでなければ、意識のない状態で自らの裸体をさらしてメスで切られるなんてことは、到底「あり得ない」はずです。
信頼関係を構築するにはどうすればいいか…。まず何といってもお互いをよく知ることです。相手のことを知り、理解しなければ、信頼関係なんて築けるはずがありません。皆さんに医療側の思いも知っていただきたいと考えてこれまでいろいろ情報発信をしてきましたが、十分とはいえません。

何とか皆さんにも医療側の思いを理解していただきたい…、そう思っていたところ、最近「医療者が語る答えなき世界」(磯野真穂 著 ちくま新書1261)という書籍が発刊されました。200ページ余の小著ですが、是非お読みになることをお勧めします。医療のそれぞれの現場で医療者がどういう思いでいるのかを理解していただく一助になるのではないかと思います。
指示に従わない患者に対する看護師の対応、療養型病院で働くケアワーカーの思い、高齢者の身体拘束に悩む看護師、手術室の話、新薬を前に臨床医が考えること、漢方薬の意義、腫瘍内科医の苦悩、寝たきり老人がほとんどの病院で働く理学療法士の思い、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者にかかわる看護師の思い、ソーシャルワーカーの目から見た高齢者医療、そして失語症の患者とかかわる言語聴覚士…。
皆さんと医療側との間の壁を少しでも低く薄くする、あるいは壊すことができて、相互理解に繋がるきっかけとなればいいのですが…。

また医療に従事しておられる方々にもお勧めしたいと思います。長く同じ現場にいると、新人の頃のようなフレッシュな感性を忘れがちになるのは止むを得ませんが、もう一度あの頃の気持ちを思い起こしてみませんか。

もちろん考え方は人それぞれですので、共感される方も反感を覚える方もいらっしゃると思います。それはそれでOK。大事なことは、医療というものを知り、お互いに相手を理解しようと思うこと。そしてその上で信頼関係を築くことに繋がっていけば、それに越したことはありません。

 平成29年6月22日
病院長 藤原正博

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