日本の危機? ~自分で考えることの大切さ

皆さんは今話題の「日本が売られる」(堤 未果著、幻冬舎新書517、2018年)という本をお読みになられたでしょうか。
10月5日に第一刷発行だったのですが、あっという間に売り切れ、私の手元にあるものは10月25日発行の第三刷です。

内容は衝撃的で、第1章「日本人の資産(水、土、タネ、ミツバチ、食の選択肢、牛乳、農地、森、海、築地)が売られる」、第2章「日本人の未来(労働者、日本人の仕事、ブラック企業対策、ギャンブル、学校、医療、老後、個人情報)が売られる」、そして第3章は「売られたものは取り返せ」として、イタリア、マレーシア、ロシア、フランス、スイス、米国での取り組みを紹介しています。

たとえば「水が売られる」…。日本では上水道が完備していて、どこでも安心して水が飲めます。「水と安全はタダ」と言われます。しかし諸外国では水道水の民営化が進められ、水は投資の対象となっているのだそうです。水道が民営化されるとどうなるのか…。それは本をお読みいただくことにしましょう。
以前北海道や東北の水源地が外国人によって買い占められようとしているというニュースを耳にしたことがあります。その時に抱いた漠然とした不安感が、この本を読んではっきりとしたものになりました。

たとえば「タネが売られる」…。米国の会社が遺伝子工学により1年しか発芽しない種子を作り、その種子が自社製品の農薬にのみ耐性を持つように遺伝子を組み替えることに成功しました。他の農薬を使うと枯れてしまうため、一度この種子を使った農家は、その後もずっと同社の種子と農薬をセットで買い続けることになります。当初は手間が省けていいのでしょうが、時間が経つと害虫や雑草は農薬・除草剤に耐性を持つようになります。そうなると使用量を増やさざるを得なくなります。農薬・除草剤で汚染された土壌では、遺伝子組み換え以外の種子は作付けできなくなってしまうのです。
さらに除草剤として使われるグリホサートが小児のアレルギーの原因である可能性が示唆され、さらに発がん性があることも明らかにされているのです。米国の母親達が遺伝子組み換え食品や農薬の危険性を訴えて行動を起こしています。

たとえば「医療が売られる」…。政府はこのまま医療費が高騰すると国の財政が破綻すると言って脅しをかけていますが、実は医療費高騰の原因は政府が言う高齢化だけではなく、米国から高い医療機器や医薬品を買わされているという部分もあるのです。詳細は本をお読みいただきたいと思いますが、「政治問題」なのです。

あとがきの中からいくつかの文を引用させていただきます。
スペインの若い女性の言葉です。「国民はいつの間にか何もかも『経済』という物差しでしか判断しなくなっていた。だから与えられるサービスに文句だけ言う『消費者』になり下がって、自分達の住む社会に責任を持って関わるべき『市民』であることを忘れてしまっていたのです」
そして堤氏自身の言葉…「次々にやって来るニュースに慣れて自分の頭で考えることをやめてしまえば、『今だけカネだけ自分だけ』の狂ったゲームを暴走させ、足元が崩れるスピードは増していくだろう」
「だが何が起きているかを知った時、目に映る世界は色を変え、そこから変化が始まってゆく。水道や土、森、海や農村、教育や医療、福祉や食の安全…、あるのが当たり前だと思っていたものにまで値札がつけられていることを知った時、私達は『公共』や『自然』の価値に改めて目をやり、そこで多くのものに向き合わされる。他者の痛みや人間以外の生命、子ども達がこの先住む社会が、今を生きる大人達の手の中にあることについて」

以前のコラムで自分で考えることの大切さについて述べたことがあります。政府が国民ではなく「今だけカネだけ自分だけ」の大資本、大企業の利益を守ろうとするのであれば、私達国民は一人一人が政府の政策に目を向け、その是非について自分の頭で考えなければなりません。
医療についても同様です。かつての医療は「お任せ医療」でした。しかし医療は不確実で限界があり、絶対ということはあり得ません。そんな中で満足のいく医療を受けるためには、自分で考えなければならないのです。うまくいけばOK、でも結果が自分の思った通りではなかったときに、それを受け入れなければなりません。そのためには自分が受けた医療は自分で選び自分で決めたものなんだという自覚が必要です。
ただそうは言っても実際には自分で選択・決定をするというのは難しいことが多いですね。そうであればあなたの担当医とよく話し合い、この医師になら自分の命を預けても悔いなしと思えるしっかりした信頼関係を築くことが、「いい医療」の実践のためには最も重要です。

かつて安倍総理大臣が「大企業が儲かれば、いずれそのおこぼれが庶民にも回って来る」というトリクルダウン説を唱えたことがあります。皆さんはどう思います? そんな社会で私達は幸せな生活を送ることができるのでしょうか。
何も考えずにのほほんと生きていると、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」とチコちゃんに叱られるかもしれません。

平成30年11月22日
病院長 藤原正博

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