子どもを育てる

新潟県高校野球連盟が画期的な方針を打ち出しました。春の県大会において、投手の1試合の球数を100球に制限する旨を表明したのです。

昨年の夏の甲子園大会で秋田県の金足農業高校が吉田投手の獅子奮迅の活躍で準優勝したのは記憶に新しいところですが、吉田投手は1試合平均150球で5試合を完投、6試合目の決勝戦はさすがに疲労困憊でした。結局総投球数は881球となりました。
高校野球ファンの胸をうち、マスコミでも大きく取り上げられました。しかし一方では投球数の多さを危惧する声もありました。吉田投手はプロ野球日本ハムファイターズからドラフト1位指名を受け、これからプロとして第一歩を踏み出すことになります。将来大投手となる可能性を秘めた選手なので、是非順調に育ってほしいと思います。

これまでも高校時代に好成績をあげ、期待されてプロ入りしながら肩・肘の故障に悩まされ、挫折した選手が大勢います。
またプロの世界に進まなかった選手の中にも、高校時代の投げ過ぎで肩・肘を壊し、野球から離れてしまった人がいます。
素質のある選手に高校で終わらずにプロの世界でも活躍してもらうためには、高校時代だけではなく小中学校時代も含めて、どう育てるのかはとても重要な課題です。

野球に取り組む高校生にとって、甲子園は憧れであり、大きな目標です。何とか甲子園に出たいと思って努力するのは自然なことです。その選手がチームのエースであれば、よしっ、俺が、と思って連投を買って出るかもしれません。その気持ちにブレーキをかけて、負担がかかり過ぎないようにするのが指導者の役割のはずです。
問題は指導者なのかもしれません。勝ちたいという気持ちが特定の投手を酷使することに繋がってはいないでしょうか。
全国から力のある選手が集まる一部有名校であれば、何人かの投手を育て、交替で投げさせることは可能でしょうが、ほとんどの高校では部員が少なく、1試合を任せられる投手は一人か二人です。どうしても特定の投手に負担が集中します。その投手が投げれば勝てるということになれば、勝ちたい指導者はその投手を酷使しがちです。勝利が優先される今の高校野球において、一人の投手の投球数を制限するというのはそれほど簡単では
いのかもしれません。
しかし優れた能力を持ち将来を期待される若い選手が、指導者の欲望の犠牲になって潰されることは避けなければなりません。勝つという目標を持つことは大事です。その目標を達成するためのいくつかのプランを持つ必要があるのではないでしょうか。

勝利至上主義は子ども達の野球にも広がっているようです。小学生やリトルリーグの選手などはまだ身体が出来上がっていません。それなのに勝つために一人の投手に連投させたり、レギュラーが固定されて一部の選手しか試合に出られなかったりということがあるそうです。子どもは可能性を秘めた存在です。成長に差がありますから、その時々の子どもの成長具合を見極め、チャンスを与えてあげるのが指導者の役割ではないでしょうか。

ちょっとマニアックな話になってしまいましたが、医療においても子どもを教育する、育てるということは、とても重要です。

医療においては国の方針もあって、子ども達にがんという病気を教える取り組みが始まっています。
昔はがんになったらおしまいという捉えられ方だったのですが、今はそんなことはありません。がんという病気全体では約半分は治る時代です。早期発見できれば90%は治ります。
にもかかわらず、一般の人々のがんに対するイメージはあまり変わっておらず、依然として「死ぬ病気」です。そしてがん患者に対する差別意識があることも確かです。
がんという病気になったことで職を失う人がいます。会社には残れても、それまでのような要職からは外され、やりがいをなくし、結局は退職を余儀なくされることもあります。
全ての人がいつがんという病気になるかわからないのに、自分だけは大丈夫という勘違いをしてがん患者を差別する人がいるのは確かです。

そういう考え方を持っている「おとな」を変えることはとても難しい。であれば、考え方が柔軟な子どものうちにきちんとした知識を持ってもらうようにすることは、とても素晴らしい試みだと思います。誰がどういう話をするか課題はありますが、息の長い取り組みとして続いて行ってほしいと思います。

子ども達に教えなければならないのはがんだけではありません。認知症や心臓病や脳血管疾患などについても教える必要があります。おとなになって生活習慣病の話をしても、それまでに身についた生活習慣を変えることは容易ではありません。子どもの頃から飲酒やタバコの害を教育する方がずっと効率的です。

さらにできれば「死」についても教える機会をつくってほしいと思います。子ども達が死を理解するのは難しいかもしれませんが、小学校6年生、中学校3年生、高校3年生といった節目節目で繰り返し話を聴く機会をつくることで、ぼんやりとでいいので人はいつか必ず死ぬということを理解してほしいと思います。そうすれば生きている今を大切にしようという気持ちが生まれるでしょうし、他人に対する優しさも育まれるのではないでしょうか。

経済発展優先の目先の政策も大事なのでしょうが、政治家には国の将来を見据えての長期展望を持っていただきたい。そんなことをしていたら次の選挙で勝てないなどとおっしゃらずに、国の将来を担う子ども達を育てることを意識した政策を提示していただきたいものです。
特に市町村の行政担当者や議会の議員の方々には、それぞれの地域の未来に目を向けていただけるとありがたいと思います。

 

平成31年1月10日
病院長 藤原正博

 

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