インフルエンザあれこれ

インフルエンザが流行しています。1月半ば頃から一気に患者が増えました。インフルエンザ以外のかぜも同時に流行っているようです。

かぜをひいたら家で安静にしましょうなんて言っても誰も耳を傾けてはくれず、少しでも早く治したいということで医療機関に殺到。特にインフルエンザに対しては抗インフルエンザ薬があることで、それを求めて大勢の患者さんが押し寄せます。
インフルエンザかどうかは迅速診断キットが普及していますので、短時間でわかります。インフルエンザと診断されればタミフルなどの抗インフルエンザ薬が処方されます。タミフルについてはコントロール群に比べて1日早く熱を下げてくれるという結果が臨床試験で示されています。患者さんにとってはたった1日であっても早く楽になればそれに越したことはないのでしょう。

しかしインフルエンザは基本的には自然に治癒する疾患です。普段健康で特に基礎疾患のない人に抗インフルエンザ薬を投与すべきなのかどうか、私は疑問に感じています。世界中のタミフルの7~8割が日本で使われているという話を聞くと、一層その思いを強くします。製薬会社が儲けているだけなのではないか…、なんて言うと、言い過ぎでしょうか。
タミフルが重症化を防ぎ、脳症などの合併症を予防してくれるのであれば、使う意味はあると思います。しかし残念ながらその証拠は示されていません。
一時期タミフルが飛び降りなどの異常行動の原因では、と疑われたことがありますが、どうもそうではなさそうで、インフルエンザそのものによるものとされています。タミフルについては疑いが晴れたということになりますが、逆にタミフルを使ってもインフルエンザによる異常行動は抑えられないということでもあります。

たった1日早く熱を下げるためにウイルスが蔓延している医療機関を受診することが、本当に適切な受療行動なのでしょうか。もしインフルエンザでなければ、医療機関に行くことでわざわざインフルエンザウイルスをもらいに行くことにもなりかねません。

インフルエンザおよびかぜのほとんどはウイルス感染であり、治す薬はありません。勘違いされている方がおられるようですが、抗生物質はかぜには無効です。かぜをひいたときには家で安静にしているのが一番、これに勝る治療はないのです。問題はそれがなかなかできないこと…。

原則論ばかり言っていても、じゃあどうすればいいんだとお叱りを受けそうですので、具体的にどう対応すればいいのかを考えてみましょう。

まずかぜをひかないこと、インフルエンザにかからないこと。そんなの無理、と言われそうですが、自分でできる予防策はあります。
かぜ・インフルエンザのウイルスの感染様式は主に飛沫感染と接触感染です。患者さんが咳やくしゃみをすることで飛び散った飛沫には大量のウイルスが付着していますが、その飛沫を口や鼻から吸い込むことで感染します。また階段の手すりやドアノブ、バスや電車のつり革などにウイルスが付着していて、それらに触れることであなたの手にウイルスがくっつき、何の気なしに鼻や口を触った時に感染することになります。
そこで自分にできることは頻繁に手を洗うこと、病院や商業施設に置いてある擦式アルコールを利用することで、手についたウイルスを減らすこと。
人込みに出かけたときにはうがいをすること。これはただの水でOK、うがい薬を使う必要はありません。
飛沫感染を防ぐためにマスクをしましょうと言われますが、実際にはマスクがかぜ・インフルエンザを予防するというはっきりした証拠はありません。でもやって悪いことはない。ただし顔にきちんとフィットさせることが大切です。
空気が乾燥しているとウイルスが空気中を漂いやすくなりますので、部屋の湿度を上げることも役に立ちます。

次にかぜをひいてしまった時、インフルエンザに罹ってしまった時。これに対しては自分の免疫力を十分に働かせるための環境づくり、これしかありません。そのためには安静および睡眠。
熱が出てだるいのは、身体が安静を要求しているからです。このときに無理して身体を動かすと、病気が悪化する可能性があります。また熱が出るのは身体の免疫力を上げるためと言われており、むやみやたらに熱を下げればいいというものでもないのです。あれっ? 変だな、と思ったら2~3日でいいですから仕事を休み、家で寝ていることをお勧めします。せっかく仕事を休んでも、医療機関に出かけてしまったのではなんにもなりません。とにかく家で寝ること、それがポイントです。

本当にかぜあるいはインフルエンザであれば、7~10日間で良くなります。しかしこの間ずっと寝ているわけにはいかないでしょうから、身体が楽になって動き始めたら、他人にうつさないようにする気遣いが必要です。熱が下がっても、ウイルスの排出は暫く続くからです。
先に述べたようにかぜ・インフルエンザは飛沫感染、接触感染ですから、あなたが咳、くしゃみをするとウイルスを周囲にばら撒きます。それを防ぐためにはマスクは有用です。マスクをしていない場合はハンカチやティッシュ、あるいは自分の手や服の袖で受ける心遣いをしましょう。もちろんそのあとは手をしっかり洗うことを忘れずに。

如何ですか? ご理解いただけたでしょうか。
マスコミは臨床にはあまり縁のない識者、権威の言葉として、インフルエンザかなと思ったら早めに医療機関を受診することを勧めていますが、私達現場の者としては、具合が悪いのに混んでいる病院に来て1日つらい思いをしながら過ごすよりは、その分、家で布団をかぶって寝ている方がずっといいのに、と思います。

むしろ病院を受診すべきなのは、なかなか熱が下がらない、上気道症状がなく熱だけが続くという場合です。かせであれば7~10日間で良くなります。原則徐々に症状は軽減します。しかしかぜのような症状で始まったけれど、実はそうではなかったということがあります。中には急性肝炎や急性心筋炎、急性白血病など重篤な疾患の場合もあり、それを的確に診断するのが私達の役割です。
熱が出たばかりの時にその熱の原因が何なのかを診断するのは難しいことなのです。インフルエンザの場合は迅速診断キットにより診断がつきます(それも発熱後12時間程度の時間が必要です)が、他の多くの発熱性疾患はそういうわけにはいきません。熱が出てあわてて病院に飛んで行ったけれど、解熱剤だけ処方されて暫く様子を見ましょうと言われた経験をお持ちの方は大勢いらっしゃるのではないでしょうか。熱が出たら、特に夜間は、家で額や腋の下を冷やし、様子をみるというのが最も賢明な対応です。高熱が出て苦しければ、手持ちの解熱剤を使っていただいても構いません。

結局かぜをひいたら自宅安静、ということになってしまうのですが、日本の社会はそれを許してくれません。かぜをひくのはたるんでいるからだなどという精神論がまかり通るようでは、いつか強毒性の新型インフルエンザが流行った時には、大勢の死者を出すのは間違いありません。

以前新型インフルエンザが話題となり、その被害程度がシミュレーションされたことがあります。具体的な数字は忘れましたが、首都圏では何十万人、ひょっとすると何百万人もの死者が出るかもしれない。でもその時に住民が自宅待機をすることができれば十分の一程度に減らすことができるというものでした。要はお互いにうつし、うつされるという関係を遮断することが最良の方策なんだということです。

今国は、働き方改革を推し進めようとしています。内容は主として時間外労働制限ですが、この機にかぜをひいたときにゆっくり休める制度でも創設していただければいいのにと、淡い期待を抱いているところです。

最後に皆さんの参考になりそうな書籍をご紹介しておきます。

裴 英洙 著:「一流の人はなぜ風邪をひかないのか?」(ダイヤモンド社)

 

平成31年1月31日
病院長 藤原正博

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