緩和ケア病棟から在宅緩和ケアへ

先日県立がんセンター新潟病院に緩和ケア病棟が新設されたという報道がありました。がん終末期の患者さんがご家族と「いい時間」を過ごすための工夫が施されているようで、患者さんにとっては朗報なのでしょう。

欧米で始まったホスピスケアは、キリスト教をベースに、治癒を望めないがん患者さんに、その人に応じたケアを提供するというものですが、日本にも導入され、大阪の淀川キリスト教病院や浜松の聖霊三方ヶ原病院を皮切りに、各地にホスピスが開設されました。長岡西病院ではキリスト教ではなく仏教をベースにしたケアを提供することで、ホスピスではなくビハーラという名称を用いています。また宗教にこだわらないという観点から緩和ケア病棟と呼ぶこともあります。2017年の時点で日本全体の緩和ケア病棟は394施設、8,068床となっています。
現在新潟県には長岡西病院ビハーラの他に、新潟医療センター、南部郷総合病院、白根大通病院、そして県立がんセンター新潟病院に緩和ケア病棟が開設されています。

私達医師はなんとか病気を治したいと思います。がんという難しい病気に対しても同様です。治すことができたときの喜びは何物にも代えがたい。でも治すことができなかったときの気持ちの落ち込みは、たぶん皆さんには想像もつかないのではないかと思います。
医学部の学生は病気の治療法については学ぶのですが、治らなかった場合にどうすればいいのかを学ぶことはまずありません。それを教えてくれる人がいないからです。少なくとも私の時代はそうでした。しかし最近は少しずつ教育が行われるようになっているようです。

昔から言われていることですが、医師は病気ではなく病気を抱えた人を診なければなりません。それなのに治療が奏効せず治すための手立てがなくなった途端、患者に対する関心が薄れる医師が中にはいることを否定できません。都会の大病院の医師ほどその傾向が強いようです。そうなったときに、自分の能力の限界を伝えて他の適切な医師を紹介するのであればまだしも、あとは別の病院へ行ってくださいと突き放すようでは、医師としての資質を疑われます。
がんセンター新潟病院に緩和ケア病棟が開設されたのは、現在の医療では治すことができないがん患者さんが大勢いるという現実を反映したものと言えるかもしれません。

何としてでもがんを治したいということでありとあらゆる治療を試み、でもその甲斐なく壮絶な最期を迎えるという方もいらっしゃいます。それがその方の生き方であれば私達はそれを尊重します。でも誰の目にも治すことは難しい状態となったとき、それを受け入れることができるのであれば、別の道もあります。諦めるという言い方には抵抗があるかもしれませんが、残された自分の人生をどう過ごすか、選択の問題です。
緩和ケア病棟はかつては「死を待つ場所」と勘違いされていたところもあるのですが、けっしてそうではありません。残された人生をがんの苦しみ、辛さを軽減しながら、少しでも有意義に過ごすことが目的です。

ホスピスケアという言葉は理念であって、建物のことではありません。実際欧米では施設ホスピスよりは在宅でのケアが主体となっているようです。それに比べると日本では施設が中心で、一部独立型のホスピスもありますが、多くは病院内の一病棟として運営されています。
病院内の緩和ケア病棟の方がいろいろな面で効率的かもしれません。でも患者さんにとってはどうなのでしょうか。いくら快適な環境を整えたとしても、自宅とは違います。患者さんにとっては療養環境としては自宅に勝るところはないと思うのですが、残念ながら現時点では在宅ケアの体制が不十分で、なかなか家で過ごすことが難しいのが現状です。
でも病院内に緩和ケア病棟を持てるのであれば、そのスタッフを訪問診療に振り向けることで、在宅緩和ケアが可能なのではないでしょうか。

よく「医療は患者のため」とか「患者中心の医療」とか言われることがありますが、私は何を言っているんだろうと思います。だってそんなの当たり前だからです。わざわざもったいぶって言うようなことではありません。患者さんにどういう医療を提供すべきなのかを常に考えていれば、医療側としてやるべきことは必ず見えてくるはずです。
最近になって在宅緩和ケアの動きが広がってきているようですが、まだまだ不十分です。緩和ケアのためにはオピオイドの使い方に習熟することが必須ですが、開業医の中には麻薬免許を持っていない人もいます。確かに開業医ががんの末期の患者さんと関わるのは負担が大きく、かなりの勇気と決断が必要です。そういう点では病院が緩和ケア病棟ではなくチームを組んでの訪問診療で在宅緩和ケアを提供するという形がいいのではないかと考えています。

もちろんがんで闘病されている方自身が、「自分は家ではなく病院で最期を迎えたい、それも緩和ケア病棟ではなく今入院している病棟で。医師・看護師とのいい関係もできているし、家に帰っても家族に迷惑をかけるだけだし、ちゃんとケアしてもらえるかどうか心配だし」とお考えであれば、それはそれで全く問題はありません。ただし主治医に緩和ケアの知識と技術があることが前提でしょうが…。
どこで死ぬかは問題ではありません。大切なのは自分の最期を納得して受け入れることができるかどうかなのだろうと思います。

がん患者に限らず、ヒトはいつか必ずお迎えが来ます。自分が死ぬことを理解し、そのときどのような形で死を迎えたいか、少なくとも高齢者の方々には考えていただきたいものです。
本当は若い方達にも頭の隅っこでいいので「死」を意識していただけるといいのですが…。

 

平成31年2月14日
病院長 藤原正博

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