退任のご挨拶とお願い~柏崎地域の医療の将来に思いを馳せて

平成21年4月に副院長として当院に赴任、翌22年4月からは病院長として、柏崎地域の皆さんに「いい医療」を提供すべく、病院スタッフともども努力して来たつもりです。
そしてこの3月、退職することになりました。柏崎地域の皆さんにどれだけ貢献できたのかわかりませんが、自分としてはできることを精一杯やってきたと思っておりますので、特に思い残すことはありません。

皆さんに「いい医療」を提供したい、そして私達も「いい医療」を実践したい、そう考える中で病院ホームページにコラムを連載し始めたのが平成23年4月でした。「いい医療」のためには皆さんに医療というものを知っていただく必要があると思ったからです。
皆さんにとって医療は身近で、あって当たり前のものかもしれません。でも未来永劫それが保障されているわけではありません。
皆さんは医療のことをどれだけご存知でしょうか。私の目からは、皆さんの医療についての知識は不十分で、誤解しておられることがかなりあるという印象です。

医療はもともと不確実で限界があり、「絶対」ということはあり得ません。やってみなければわからないという部分が多々あるのです。そんな中で「いい医療」を実践するためには、皆さんと私達医療側とのお互いの信頼関係を築くことが求められます。
どうすればいいのか…。まずお互いを理解する必要があります。皆さんには医療というものをわかっていただきたい、そして私達は皆さんが求めているものを理解することが大切です。
皆さんに医療を知っていただきたい、そして私が何を考えているのかを皆さんにお伝えしたいということで書き始めたのがこのコラムでした。ここまで全170篇、まる8年にわたって月にほぼ2篇のペースで様々なテーマで書き綴って来ました。ちょっと難しい内容もあったかもしれませんが、これまでお読みいただいた方には心より感謝申し上げます。

今回が最後になりますので、柏崎地域はこの地域完結型の医療が必要であることを改めて申し上げたいと思います。

今国は、人口約20万人程度を目安として二次医療圏を設定、その二次医療圏単位での病院機能再編を目論んでいます。もともとのターゲットは都会の中小病院で、急性期の看板を掲げながら急性期病院としての機能を果たしていない病院を整理し、医療費削減を図ろうとしたものだったのですが、そのあおりを地方の中小病院がくらうことになってしまいました。
都会の人口密度が高い地域であれば病院単位での役割分担、すなわちこの病院は急性期、この病院は回復期・慢性期、というように分けることは可能かもしれません。交通機関も発達していますから、移動もそれほど苦にならないでしょう。
しかし地方は違います。具体的に柏崎地域について述べますと、柏崎市と刈羽村は長岡市、見附市、小千谷市、出雲崎町と一緒になって一つの二次医療圏を構成します。この中で国が言うように病院単位で機能分担をすることなどできるわけがない。できるわけないのですが、「急性期病院は二次医療圏に一つか二つあればいい」という厚生労働省官僚の言葉を踏まえれば、将来柏崎地域の急性期病院はなくなる可能性があるのです。つまり今の当院は規模縮小を余儀なくされ、回復期・慢性期病院に衣替え、救急医療には対応できなくなるかもしれないのです。
実際新潟大学の教授の中には、柏崎にはもう人(医師)は出さない、長岡に集約すると言っている人もいます。今でも足りない医師がさらに減れば、当地域の医療が立ち行かなくなるのは明らかです。

現在当院は年間2,400台前後(1日平均6~7台)の救急搬送を受け入れています。余程のことがない限り、長岡に転送することはありません。原則当院で対応しています。それができるからです。しかし当院で救急搬送を受け入れられなくなれば、救急車は長岡まで行くしかありません。当然収容所要時間(消防署が連絡を受け、現場に駆けつけ、患者を救急車に乗せ、医療機関に搬入するまでの時間)は延びます。冬、暴風雪や道路の凍結などで長岡まで行けない場合も出てくるかもしれません。現時点での柏崎消防署管内の収容所要時間は40.6分(平成28年)で、県平均の44.6分をかなり下回っていますが、長岡まで運ぶとなれば60分以上かかる可能性もあります。脳血管疾患や心筋梗塞は時間との勝負です。収容所要時間が延びれば助かるはずの命が助からないことにもなりかねません。柏崎地域はこの地域内で医療を完結させなければならないのです。

また夜間・休日の救急搬送以外の急患も当院はお断りすることなく受け入れていますが、当然それもできなくなります。

皆さんはそういう事態を受け入れることができますか?
医療体制が整っているということは、皆さんが安心して安全に暮らすための重要な条件なのです。
この危機をどう乗り切っていけばいいのか…。
やるべきことはただ一つ、皆さんと私達が一緒になって柏崎の医療を守り、支えること。
そのためにはどうすればいいのか…。

当院の一番の問題はスタッフが足りないことです。医師はもちろん看護師も、薬剤師も、リハビリ技士などその他の部署のスタッフも…。
これまで何とかスタッフを増やすべく努力をしてきたつもりですが、思うようにはいきませんでした。
医師については、当院の常勤医数は平成30年10月1日現在で37名(うち歯科2名)です。ピンとこないかもしれませんが、当院とほぼ同規模(400床)の済生会熊本病院の医師数145名と比べていただくと、いかに少ないかがおわかりいただけると思います。
スピードスケートの小平奈緒選手が所属することで有名な松本市にある相澤病院は、460床で当院より若干規模が大きいのですが、医師数は141名です。
看護師も同様で、当院の290名に対して済生会熊本病院は738名、相澤病院は627名です。

そんな中でみんなが頑張っているということを、是非皆さんにわかっていただきたいのです。
プロなんだから弱音を吐くなとお叱りを受けそうですね。どんな状況であっても自分には関係ない、必要な時はちゃんと診てくれなくっちゃ、と言われると私達もつらい。
医師も看護師も疲労困憊です。世間で取りざたされている過労死・過労自殺もけっして他人事ではありません。このままでは病院を辞めるスタッフが出てくることも避けられません。
今後当院のスタッフが増える見込みがない中で辞める人が出て来れば、他のスタッフにかかる負担が大きくなり、じゃあ私も辞めるということになりかねないのです。
今いるスタッフを大事にしていただきたい、できれば批判するだけでなく、褒めてやっていただきたい。この3月で退職する病院長の最後のお願いです。

皆さんの受療動向(どこに住んでいる誰々さんが、どこの病院にかかっているか)は厚生労働省に丸見えです。皆さんの中には長岡市や新潟市の病院に通院している方もおられると思います。いろいろな理由がおありでしょうから反対するつもりはありません。大事なのは自分が納得できる医療を受けること。
当院は長岡市など市外から通院される方はいません。ほぼ全てが柏崎市あるいは刈羽村にお住いの方々です。病院は皆さんに利用していただかなければやっていけません。慈善事業ではありませんので収益をあげる必要があります。収益をあげるためには受診患者数を増やさなければなりません。つまり柏崎地域の皆さんに当院を利用していただかなければ当院は存続できないということです。もし皆さんが柏崎地域内の医療機関を素通りして市外へ流れるようだと、その動きは厚労省に丸見えですので、「なんだ、柏崎の住民は地元の医療機関を受診していないじゃないか」ということになり、二次医療圏内での病院再編が加速することになります。

スタッフ不足で忙しいと言っていながら、患者が増えてもかまわないのかと問われそうですが、全ての方が当院へ、ということではありません。柏崎は柏崎地域内で医療を完結する、つまり通常はかかりつけ医といい関係を築き、病院での治療が必要になったらかかりつけ医の紹介で当院へ、という役割分担をすることができれば、みんなにとってウィンウィンの状況をつくり出せるのではないかなと思うのです。

今後の柏崎地域の医療を守り、皆さんが満足のいく医療を維持するためにはどうすればいいのか、皆さんの立場でも考えていただけると幸いです。

柏崎に来て10年、病院長として9年、あっという間でした。
皆さんには当院をご利用いただきましたこと、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。これからも柏崎総合医療センターをよろしくお願い申し上げます。
皆さんの今後のご健勝をお祈り申し上げます。

 

平成31年3月7日
病院長 藤原正博

 

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