薬にまつわる話、アレコレ

先日朝日新聞が、「飲めずに『残薬』、山積み 高齢者宅、年475億円分か」と題する記事を報じました。
薬を飲んでおられる方は経験があると思いますが、いろいろな理由でつい飲み忘れ、何日分かが余ってしまうことがありますよね。私が外来で診ている患者さんの中にも、「薬が1週間分くらい残っています」とおっしゃる方が時々います。その場合は次回受診時までの分から1週間分を差し引いて薬を処方します。高血圧や高脂血症などでは、病状が安定していれば1日薬が抜けたとしても、それほど大きな問題はないので、そのようにお伝えしています。もちろん薬によっては飲み忘れると病状の悪化を招いたり、重篤な合併症を起こしたりすることに繋がるものもありますので、その場合はきちんと飲まなければなりません。
私達医師(特に内科医)にとって薬は病気を治す、あるいはコントロールするための武器です。薬を使ったのに病状がよくならなければ、その薬は効いていないと判断し、量を増やすか他剤に変更したりします。それはあくまでも患者さんがきちんと薬を飲んでいるというのが前提です。患者さんの中には薬を飲み忘れて残薬がたくさんあっても、それを医師に伝えない人もいます。そうなると、医師は次回診察日までの分を処方しますから、手元にある薬がどんどん増えることになります。人によっては余った薬を捨ててしまうこともあるようです(薬はただではありません。そんなもったいないことはしないで下さいね)。残薬がある場合は、その旨きちんと主治医に伝えましょう。場合によっては主治医に怒られるかもしれません。でもそれは、その薬がとても大事なものであるからであって、あなた自身がその薬の重要性を再認識するきっかけとなるのではないかと思います。
一部の薬、例えば下剤などは、あなたの症状に応じて適当に飲む量や回数をあなた自身が調節することは可能ですが、多くの薬は基本的には決められた通りに飲むべきであって、あなたが勝手にやめたり量を調節したりしてはいけません。思わぬ有害事象が生じる可能性があります。

コラム84で抗菌薬(抗生物質)と耐性菌の話をしましたが、抗菌薬を使うことで腸内細菌叢が変化し、糖尿病のリスクが高まることが、最近の医学雑誌に報告されています。
抗菌薬は細菌感染症の治療のためにとても大切なものなのですが、安易な使用は様々な問題を惹き起こします。適正使用を心がけたいものです。皆さんも「かぜをひいたから抗生物質を下さい」などとはけっして言わないように…。かぜの原因のほとんどはウイルスであって、抗生物質は効かないのです。

市販薬で重篤な副作用が出現、亡くなった人もいることが消費者庁から発表されました。5年間に市販薬による副作用が認められた1,225症例が報告され、そのうち15例の死亡例があったとのことです。8例がかぜ薬、3例が解熱鎮痛剤とのこと。
かぜをひいて市販のかぜ薬を飲む…、普通はかぜであれば1週間前後で自然に治るのに、かぜ薬を飲んだがために重篤な副作用が出て後遺症に悩まされる、あるいは命を落とす…、そんな馬鹿なことってないですよね。
薬は身体にとっては異物です。不必要なものはできるだけ避けるに越したことはありません。「クスリ」は「リスク」の裏返しであることを、改めて認識していただきたいと思います。

私達の手には様々な細菌やウイルスが付着していて、それが鼻腔や口から侵入して感染症を惹き起こす場合があります。インフルエンザなどがそうですが、そのリスクを減らすための最善の方法は手を洗うことです。しかし何かに触るごとにその都度手洗いをするというのは現実的ではありませんので、次善の策として速乾性アルコールによる手の消毒が行われます。
私達医療従事者は大勢の患者さんと接触しますので、私達の手についた細菌やウイルスが患者さんに感染することがないよう、手洗いやアルコールによる消毒を行っています。
最近では大勢の方が集まる場所の入口に速乾性アルコール製剤が置かれ、一般の方々が手の消毒をされている姿をよく見かけるようになりました。ただ、あまり神経質になることはありません。私達の周りには無数の微生物が存在し、それを全て撲滅することなどは不可能だからです。通常は私達の身体はその微生物の侵入を防ぐ仕組みを備えています。
またノロウイルスやロタウイルスのように、アルコールが効かないものもありますので、アルコールを過信するのは禁物です。

消毒に関してもう一つ。以前は切り傷、擦り傷に対して当たり前のように消毒が行われましたが、実は消毒をすると消毒薬のために傷口の細胞が傷み、かえって治りが遅くなることがわかり、今では水洗いだけで十分とされています。

皆さんの中にはいくつかの医療機関にかかっていて、それぞれから薬をもらっている方がいらっしゃるかもしれません。担当医にその旨をきちんと伝えていますか?
たとえば心臓の病気でワーファリンという血を固まりにくくする薬を飲んでいらっしゃる方。その薬を処方しているところとは別の医療機関にかかって内視鏡検査を受ける、あるいは歯科で歯周炎の治療を受けたり抜歯をしたりすることがあります。その際、ワーファリンを飲んだままだと、思わぬ大出血を起こすことがあります。もっとも、今では事前の問診で確認をするのが普通なので、ワーファリンを飲んでいる場合は休薬などそれなりの対応をすることになります。
複数の医療機関から同じ薬が処方されることがあります。知らずに全部服用すると、過量となって副作用が出る可能性があります。これを避けるためにはかかりつけ薬局をつくって、薬剤師に薬の管理をしてもらうことが大切になります。

如何ですか? 薬は確かに大事なものなのですが、使い方を誤れば毒にもなります。主治医やかかりつけ薬局の薬剤師とよくご相談の上、上手に薬を利用して下さい。「クスリ」は「リスク」の裏返しであることを、もう一度申し上げておきたいと思います。

 平成27年4月23日
病院長 藤原正博

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