因果関係と相関関係

皆さんは特定健康診査(メタボ健診)というのをご存知でしょうか。そう、腹囲がどうのこうので話題となった例の健診です。2008年に始まり、40~74歳の公的医療保険加入者全員が対象となります。目的は生活習慣病の早期発見と治療。
高血圧、糖尿病、高脂血症(脂質異常症)などの生活習慣病をコントロールすることで、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを減らし、さらに医療費削減を図りたいというのが国の思惑です。齢をとっても元気で長生き、ということなのでしょう。ヒトには寿命がありますからいつかは死ぬのですが、できればギリギリまで健康で元気に過ごせればそれに越したことはありません。

じゃあ、健診を受けていれば長生きできるのでしょうか。残念ながらその答えはNoです。信頼のおける試験の結果、健診と長生きとの間には因果関係がないことが示されています。
ただし、健診を受けて生活習慣病の予防あるいはコントロールができれば、生活の質を維持することはできるかもしれません。いわゆる健康寿命を延ばすことにつながる可能性はあります。でもここ数年は、平均寿命と健康寿命の差はほとんど縮まってはいないようです。

さて、表題に掲げた「因果関係」と「相関関係」、皆さんも言葉くらいはお聞きになったことがあるのではないかと思います。
二つの事柄のうち、片方が原因となってもう片方が結果として生じた場合、この二つの間には「因果関係」があると言います。これに対して、片方につられてもう片方も変化しているように見えるものの、原因と結果の関係にない場合には「相関関係」があると言います。

冒頭のメタボ健診と長生きについて言うと、メタボ健診を受けて生活習慣病をコントロールすることが長生きにつながるのであれば、メタボ健診と長生きとの間には因果関係があることになります。そうであれば税金を大量に注ぎ込んで(2008年から2014年の間に約1,200億円の税金が使われています)健診をやることには意味があるということになるのでしょうが、健診が長生きには結びつかないのであれば、大金を投じる価値がないということになります。それでも健康寿命が延びているのであれば健診の意味はあるのでしょうが、それも証明されてはいません。

この世の中には因果関係がはっきりしない、根拠のない通説が山のようにありますが、それが本当に因果関係のあるものなのか、あるいは全くの偶然による相関関係なのかを見定めることは、とても重要なことだと思います。
ニコラス・ケイジの年間映画出演本数とプールでの溺死者数との間には強い相関関係があることが示されています。と言われても、そんな馬鹿な、偶然だろと思いますよね。そう、単なる偶然なのです。ところがその偶然を信じてしまう場合があります。スタジオジブリの映画が日本のテレビで放映されるとアメリカの株価が下がるということがあるそうで、「ジブリの呪い」と言われるのだそうです。全くの偶然なのですが、これが法則として認識されると、それを見込んだ投資行動が起こるのだそうです。

他にも様々な通説があります。
「認可保育所を増やせば母親は就業する」
「勉強ができる友人と付き合うと自分の学力も上がる」
「偏差値の高い大学に行けば収入が上がる」
これらの因果関係はいずれも否定されています。つまり、認可保育所を増やしても母親の就業率は上がらず、学力の高い友人に囲まれても自分の学力は向上せず、偏差値の高い大学に行くことが将来の収入増には結び付かないのです。

教育、医療、そして政治の場面においては、将来を見通して方策をたてることが求められますが、因果関係があやふやな通説に基づいて将来方針が決定されるとしたら、効果が期待できないだけではなく、お金の無駄遣いにしかなりません。
最近の国会は「ウソ」がテーマとなっているかの如き様相を呈していますが、私達国民は、「それってホント?」と、常に関心を寄せる必要があるのではないでしょうか。

最後にちょっとおもしろいデータを紹介します。

皆さんは病院に入院した時、男性医師に診てほしいと思いますか? それとも女性医師に診てほしいと思いますか?
米国のデータですが、内科的疾患で入院した患者について、男性医師よりも女性医師が担当した患者の方が、30日死亡率が低い(11.2%対10.8%でそれほど大きな違いではありませんが、統計学的には意味のある差です)ことが明らかにされています(JAMA Intern Med 2017;177:206-213)。つまり、医師の性別と患者の死亡率との間には因果関係があるということになります。この論文は、2017年に発表された学術論文のうち、ニュースやソーシャルメディアで取り扱われた頻度が高かったトップ100の第3位に選ばれています。米国では男性医師に比べて女性医師の給料が安く、昇進が遅いということで社会問題になっているそうです。そんな男女格差に一石を投じたということでしょうか。

※ 今回のコラムは「『原因と結果』の経済学~データから真実を見抜く思考法」(中室牧子、津川友介 著)を参考とさせていただきました。興味を持たれた方は、是非お読みになってみてください。

平成30年5月10日
病院長 藤原正博

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