医師の働き方改革~その2

国は過労死や過労自殺の多発を受けて、時間外労働を制限する方向で検討を進めています。
一般の労働者においては、来年4月から時間外労働の上限を休日労働を除き年間720時間とする法律が施行されます。罰則付きです。
医療機関の医師については、この規制をそのまま適用した場合には夜間・休日の救急対応が困難となり、患者への影響が大きいとして、5年間猶予し、別の規制を導入する方向で検討が進められています。

先日の厚生労働省の会議において、一般の医師の時間外労働の上限を、休日労働と合わせて年間960時間、月80時間とする方針が示されました。
さらに医師不足の地域においては、例外として年間1,920時間、月160時間まで認める方向で調整中とのことです。
月80時間の時間外労働は「過労死ライン」と重なります。ということは、医師は過労死しても仕方がない? そんな馬鹿な…。

かつて働き方改革が話題となり、医師(勤務医)も労働者だから例外とはならないという話が出たとき、今の状態で時間外労働が規制されたら、地方の救急医療は成り立たないという危機感を覚えました。それと同時に、本当に働き方改革を進めようと言うのであれば、絶対に医師の増員が必要であるとの思いを強くしました。今まで医師の増員には首を縦に振らなかった国が、ひょっとするとこれを機会に方向転換をし、医師を増やすための方策を考えるのではないか、と淡い期待を抱きました。
しかしみごとに裏切られました。やはり国は医師を増やすつもりは全くない、人口が減って医療需給が均衡する20年後、30年後まで我慢しなさい、というわけです。それまでは多少の犠牲は止むを得ないということなのでしょう。

となると、医師の時間外労働を減らすためには現場での努力、工夫が必要になります。
夜間・休日の救急外来を閉じるわけにはいきませんので、なんとか受診者数を減らすことを考えなければなりません。当直医の睡眠時間を確保する必要があります。
救急車で搬送される患者の約半数は軽症であること、自分で歩いて受診される方はほとんどが緊急対応が不要であることを考慮するならば、極力夜間・休日の受診を控えてくださるよう、皆さんのご協力をお願いしなければなりません。
しかし実際には皆さんがご自分で緊急性の判断をするのは難しい。じゃあどうすればいいのか…。難しい問題です。
場合によっては深夜帯の急患受け付けを停止するなどの強硬手段も考慮せざるを得なくなるかもしれません。この場合、応召義務との関係が問題となりますが、たぶん罰則付きの法律の方が優先されるだろうという意見が優勢です。

ほとんど眠ることができない当直明けも、医師は休まずに次の日の業務をこなします。現在当院では当直明けは仕事の段取りがついたら早く帰っても構わないとしていますが、実際には夕方まで通常業務に従事している医師がほとんどです。
国は「勤務間インターバル制度」を導入するつもりのようですが、終業から次の始業まで9時間、泊まり勤務後は18時間の休息を確保することが義務付けられるとしたら、地方の多くの中小病院は業務が立ち行かなくなるのではないでしょうか。

「いつでもどこでも、自由に医療機関を選択して、比較的安い自己負担額で、ある一定レベル以上の医療が受けられる」という世界に類を見ない優れた日本の医療制度も、ひょっとすると曲がり角に来ているのかもしれません。

 

平成30年12月25日

病院長 藤原正博

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